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従業員の健康施策を担当されている皆さまは、いま次のような状況に直面しているのではないでしょうか。
- メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した、または退職した労働者がいた事業所の割合は13.5%(令和7年「労働安全衛生調査」)。従業員規模50人以上の事業所では93.7%がメンタルヘルス対策に取り組んでおり、「対策をしているか」ではなく「どの対策で差をつけるか」が問われる段階に入っています。
- 健康経営優良法人2026の認定は、大規模法人部門3,765法人・中小規模法人部門23,085法人にのぼります(経済産業省, 2026年3月発表)。認定の取得自体は、もはや差別化の要素になりにくくなっています。
- 健保組合のデータヘルス計画・コラボヘルスにおいては、医療費適正化に実際につながる具体的な打ち手が求められています。
この3つの課題に同時に応えうる選択肢として、海外ではすでに、PGx(ファーマコゲノミクス/薬理遺伝学)検査を従業員に提供する取り組みが始まっています。
海外では、遺伝子検査が福利厚生になっている
米国では2018年頃から、遺伝子検査を福利厚生として従業員に提供する企業が現れました。検査会社Color社を通じた導入事例では、受検率の高さが注目されています。
PGx検査を福利厚生として導入した米国企業と受検率
Levi Strauss & Co. | 従業員 約1,100名 | 半数超 |
|---|---|---|
NVIDIA | 米国内従業員 約6,000名 | 約27% |
SAP | 従業員・家族 約30,000名 | 約17% |
その他の導入企業 | Salesforce、Slack、Stripe、Snap、Visa、Instacart、OpenTable、GE Appliances など | ― |
医療機関自身が従業員向けに提供する例(Jefferson Health)もあります。
注目すべきは受検率です。福利厚生施策で対象者の半数が自発的に利用するものは決して多くありません。「自分の体質を知り、将来の医療に備えたい」というニーズが、従業員側に確かに存在することを示しています。
ここで注目していただきたいのが、提供されている検査の中身です。Color社が企業向けに提供しているのは、遺伝性疾患リスクの検査(がん関連23遺伝子・心疾患関連31遺伝子ほか計60遺伝子)と、薬剤応答=PGxの検査(20遺伝子)をセットにしたプログラムです。「将来の病気のリスクを知る検査」と「薬の効き方を知る検査」を一体で従業員に届ける形が、海外でみられます。
国内でも、すでに始まっています
この「疾患リスクの検査とPGx検査を組み合わせて従業員に提供する」形は、すでに日本でも動き始めています。Genovision PGxを提供するNTTグループ自身が、従業員向けの福利厚生として、人間ドック向けの遺伝子検査サービスであるGenovision Dockと、薬剤応答を調べるGenovision PGxの両方を、従業員が選択して受検できる形で導入しています。
海外のパッケージと同じ考え方を、日本の就業環境・日本人の遺伝子頻度に合わせた形で実装した事例と言えます。また「選択制」という提供形態は、後述する『受検は任意であること』という運用設計の原則とも自然に整合します。
POINT
提供する側の企業グループ自身が、自社の従業員に対して導入している――この事実は、導入を検討される企業にとって、一つの判断材料になるものと考えています。
PGxを福利厚生に組み込んだ企業で、何が起きたか
Color社の遺伝子検査を福利厚生として導入した企業では、高い利用率が得られ、検査結果を活用した服薬最適化によって入院・救急受診を減らす可能性が示されました。
自家保険企業でのPGxプログラムの結果
米国の自家保険企業において、PGx検査を組み込んだ包括的な服薬管理プログラムを実施した結果が報告されています(The Pharmacogenomics Journal, 2024年)。プログラム参加者452名と、属性を揃えた対照群1,500名を26か月間追跡した比較研究です。
- 入院が39%減少、救急外来の受診が39%減少(それぞれ p=0.05、p=0.002)。
- 一方で外来受診は21%増加。重症化してからの救急・入院ではなく、早い段階で外来を受診する行動への移行がみられました。
- プログラムを完了した従業員の86%が、実行可能な処方見直しの推奨を受け取りました(1人あたり平均5件)。
- 医療費・薬剤費の合計は1人あたり月128.31ドル減少(統計的有意差なし)。費用減少の主な源泉は、入院・救急領域でした。
POINT
「重症化してからの高額な医療」を「外来での早期の最適化」に置き換える構造は、医療費を負担する健保組合・自家保険の企業にとって、そのまま財務的なメリットにつながる可能性があります。
※この研究で報告された効果は、PGx検査単独ではなく「PGx検査を組み込んだ包括的服薬管理プログラム」全体によるものです。1人あたり平均5件の推奨には、重複投薬・相互作用・用量調整など、従来型の服薬管理でも見つかる指摘が含まれていると考えられます。また参加者は自ら参加を選んだ方であり、対照群と属性を揃えていても健康意識の差が残る可能性があります。参加者452名という規模もあり、受診回数の差は統計的に有意でしたが、医療費の差は有意差に至っていません。
補足:米国の「自家保険」とは、そして日本の健保組合との関係
米国の企業が従業員に医療保険を提供する方法は、大きく2種類あります。保険会社に保険料を払い、医療費の支払いと財務リスクを保険会社が負う「保険購入型(fully-insured)」と、企業が従業員の医療費を自社の資金から直接支払う「自家保険(self-insured/self-funded)」です。自家保険では、保険会社には事務処理やネットワーク提供のみを委託し、高額症例に備えて再保険を別途購入します。米国の大企業では、この自家保険が主流です。
重要なのは、自家保険では医療費の削減額がそのまま企業の損益に返ってくるという点です。だからこそ、予防的な健康プログラムへの投資判断が直接的に行われ、その効果検証も企業主導で進んでいます。
日本で構造が最も近いのは、単一企業により設立された健康保険組合(いわゆる単一健保)です。保険料を集めて給付費を支払い、加入者の医療費が増えれば財政が悪化し、保険料率の引き上げ、すなわち企業負担の増加につながります。「医療費の削減が自社に返ってくる」という意味で、健保組合を持つ企業は米国の自家保険企業と同じ立場にあります。一方、協会けんぽ加入企業の場合は全国でリスクがプールされるため、自社の改善が自社の保険料率に返る度合いは限定的です。
※なお、日本の健保組合の支出は法定給付費だけでなく、前期高齢者納付金・後期高齢者支援金などの拠出金が大きな比重を占めます。このため、在職者の医療費削減が財政改善として返ってくる度合いは、米国の自家保険企業に比べると小さくなる点には留意が必要です。医療費以外の効果(休職・離職の減少、健康経営の取り組みとしての評価)と併せて検討されることをおすすめします。
【研究成果の考察】なぜ、入院・救急受診が減るのか
「薬の選び方を変えるだけで、なぜ入院や救急受診が減るのか」――この点は、社内で施策を説明する際に必ず問われるポイントです。背景には、次の3つの事実があります。
① 薬の有害事象そのものが、救急入院の主要な原因である
米国CDCの調査(Budnitz et al., New England Journal of Medicine, 2011年)によれば、65歳以上の米国成人では、薬の有害事象による緊急入院が年間およそ10万件発生しています。しかもその原因は、ごく少数の薬剤に集中しています。
緊急入院の原因となった薬剤
ワルファリン(抗凝固薬) | 33% |
|---|---|
インスリン | 14% |
抗血小板薬(アスピリン・クロピドグレルなど) | 13% |
経口糖尿病薬 | 11% |
上位4種で全体の約3分の2を占めます。
ここで注目すべきは、1位のワルファリンと3位のクロピドグレルが、いずれも遺伝子型によって必要量や効果が大きく変わることが分かっている薬剤であり、Genovision PGxの検査対象に含まれているという点です。(2薬剤ともGenovision PGxの検査対象に含まれます。)「救急入院の主要因になっている薬」と「遺伝子型で用量・薬剤選択を変えられる薬」が重なっているのです。
② 「事前に分かっていれば避けられた入院」が存在する
遺伝子型と入院の間には、次のような具体的な道筋があります。
- ワルファリン(VKORC1・CYP2C9)遺伝子型により必要量が数倍異なります。効きすぎれば出血で救急搬送、効かなければ血栓症で入院に至ることがあります。
- クロピドグレル(CYP2C19)働きが弱い型では薬が十分に活性化されず、ステント血栓症から心筋梗塞による緊急入院につながることがあります。
- スタチン系薬剤(SLCO1B1)特定の型では筋障害・横紋筋融解症のリスクが高まり、入院に至る場合があります。
- アザチオプリン・メルカプトプリン(NUDT15・TPMT)働きが弱い型では重度の骨髄抑制を起こし、発熱性好中球減少症などで緊急入院となることがあります。
- 抗うつ薬(CYP2D6・CYP2C19)代謝が速すぎる・遅すぎることで効果が得られない、あるいは副作用が強く出て、症状の悪化から精神科入院に至ることがあります。
いずれも、事前に遺伝子型が分かっていれば、薬剤や用量の選択を変えることで避けられた可能性のある入院です。
③ 「重症化してからの医療」が「外来での早期対応」に置き換わる
前章の研究では、入院・救急受診が減る一方で、外来受診は21%増加していました。薬剤師や医師と早い段階で相談し、調整する行動が増えた結果、救急や入院に至る前に問題が解決している――この「置き換え」が起きていると考えられます。医療費の観点では、単価の高い入院・救急が、単価の低い外来に置き換わることを意味します。
メンタルヘルス施策との親和性が高い
就労世代の健康課題として比重が大きいメンタルヘルス領域では、PGx検査の効果を示すデータがとりわけ豊富です。米国で精神科領域に特化したPGx検査GeneSightは、累計50万人以上の検査実績をもとに次の成果を公表しています。
- 約21,000人のうつ病患者の実診療データ分析(2024年発表)では、検査後180日間で精神科関連の入院が39%減少、あらゆる原因による入院も29%減少。
- 2,025人を対象としたIMPACT試験では、プライマリケア医が検査結果を活用した場合、寛解率が57%改善(相対改善)。
- 2,168人を対象とした医療費分析(Clinical Therapeutics誌, 2017年)では、検査結果に沿って処方した場合、プライマリケアで平均3,998ドルの医療費削減。
POINT
「休職の長期化」「復職後の再休職」という日本企業共通の課題に対し、抗うつ薬の選択を科学的根拠で支える手段になりえます。
「一部の人のための検査」ではありません
福利厚生として設計するうえで重要なのが、対象となる従業員の広さです。Vanderbilt大学医療センターが10,044名を先制的に検査したプログラムでは、91%の人が、少なくとも1つの臨床的に重要な(処方判断に影響しうる)遺伝子型を保有していました(Clinical Pharmacology & Therapeutics, 2014年)。
つまりPGx検査は、特定の疾患を持つ従業員だけを対象とした限定的な制度ではなく、全従業員向けの施策として設計できるということです。
運用設計で最も重要な点:企業は個人の結果を受け取らない
遺伝子検査を福利厚生に取り入れる際、従業員が最も懸念するのは「会社に自分の遺伝情報が渡るのではないか」という点です。海外の先行事例では、この懸念に対する答えが運用設計の中心に置かれています。
- 企業に提供されるのは、個人を特定できない集計情報のみ。個々の検査結果は、本人と医療者の間で完結します。
- 米国ではGINA(遺伝情報差別禁止法)が雇用判断への遺伝情報の利用を禁止し、HIPAAが遺伝情報を保護対象としています。
- 日本においても、「経済産業分野のうち個人遺伝情報を用いた事業分野における個人情報保護ガイドライン」(平成29年経済産業省告示第62号)が個人遺伝情報の取扱いを定めています。
制度設計にあたっては、次の3点を最初に明文化することをおすすめします。
① 検査結果を参照できるのは本人と医療者のみであること
② 受検は任意であり、人事評価・処遇とは完全に切り離されること
③ 結果について相談できる専門家の体制を必ずセットで用意すること
この3点の明示が、従業員の安心と受検率の双方につながります。
導入のかたち
Genovision PGxの従業員提供は、既存の健康施策の枠組みに組み込む形で無理なく始められます。
導入パターン | 対象・タイミング | 狙い |
|---|---|---|
人間ドックのオプション検査 | 人間ドック受診時に、希望者が追加で受検 | 既存の受診機会を活用でき、運用負荷が最も小さい |
健保の補助メニュー | データヘルス計画に基づく費用補助として設定 | 医療費適正化施策として位置づけ、コラボヘルスの具体策に |
メンタルヘルス施策との連動 | 休職・復職支援プログラムの一環として案内 | 抗うつ薬の選択最適化を通じた復職支援の質向上 |
対象者を絞った段階導入 | 多剤服用者、40歳以上、特定の部署などから開始 | 費用対効果を自社データで検証しながら拡大 |
Genovision PGxについて
- 70種類の薬剤に関連する18の遺伝子を、一度の検査でまとめて調べられる国内のPGx検査です。
- 抗うつ薬・抗精神病薬(CYP2D6関連25薬剤、CYP2C19関連12薬剤)、脂質異常症治療薬(SLCO1B1関連6薬剤)、抗血小板薬、鎮痛薬など、就労世代が日常的に使用する薬剤を幅広くカバーしています。
- 遺伝子の変異頻度は人種・民族により異なるため、日本人集団における遺伝子頻度データと、国内の医薬品添付文書の記載を踏まえて設計しています。
- 遺伝子情報は生涯変わりません。一度の検査が在職中はもちろん、その後の人生でも役立ち続ける、資産性の高い福利厚生です。
- 人間ドック向けサービス(Genovision Dock)と組み合わせた提供も可能です。
まとめ
海外の先行事例が示しているのは、次の3点です。第一に、従業員側の関心は高く、対象者の半数が自発的に受検した企業もあること。第二に、入院・救急受診の減少という、医療費の負担者にとって意味のある成果が実際に出ていること。第三に、企業が個人の結果を持たない設計で、安心して運用できること。
そして日本にも、すでに先行事例があります。NTTグループでは、Genovision DockとGenovision PGxを従業員が選択して受検できる福利厚生として導入しています。海外で標準になりつつある「疾患リスク+薬剤応答」のパッケージを、日本の環境に合わせて提供できる体制が整っているということです。
まずは対象者を絞った試行から、貴社の従業員に「自分に合う薬を知っている」という安心をお届けしませんか。導入のご相談・お見積りは、担当までお気軽にお問い合わせください。
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Genovision PGxの福利厚生としての導入について、対象範囲の設計から費用感まで、詳しくご案内しています。
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参考文献・出典
- 厚生労働省「令和7年 労働安全衛生調査(実態調査)」結果の概況。
- 経済産業省「健康経営優良法人2026」認定法人発表(2026年3月)。
- Clinical and economic outcomes of a pharmacogenomics-enriched comprehensive medication management program in a self-insured employee population. The Pharmacogenomics Journal. 2024.
- CNBC. Employees jump at genetic testing. Is that a good thing? 2018.(Color社を通じた企業導入事例・受検率)
- Color Health, Inc. Hereditary Disease Risk Genetic Test 2.0 & Medication Response Genetic Test 製品資料(2026年9月時点の公開情報)。
- Budnitz DS, et al. Emergency Hospitalizations for Adverse Drug Events in Older Americans. New England Journal of Medicine. 2011.(米国CDCによる調査)
- Myriad Genetics. Impact of Combinatorial Pharmacogenomic Testing on Hospitalization Rates in a Real-World Dataset of Patients with Major Depressive Disorder. AAPP, 2024.
- Myriad Genetics / GeneSight. IMPACT study. 2019.
- Assurex Health / Myriad Genetics. GeneSight Psychotropic Test Demonstrated Substantial Cost Savings for Payers. Clinical Therapeutics, 2017.
- Van Driest SL, et al. Clinically Actionable Genotypes Among 10,000 Patients With Preemptive Pharmacogenomic Testing (Vanderbilt PREDICT). Clinical Pharmacology & Therapeutics. 2014.
- 個人情報保護委員会・経済産業省「経済産業分野のうち個人遺伝情報を用いた事業分野における個人情報保護ガイドライン」(平成29年経済産業省告示第62号)。
本記事は Genovision PGx の紹介を目的とした情報提供であり、特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。制度設計にあたっては、貴社の法務・人事担当部門とあわせてご確認ください。
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