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80歳以上では およそ1.8人に1人が、遺伝子の型が効き方に関わる薬を処方されています(注)。そして高齢になるほど、その薬が効いているのかどうか、副作用が出ているのかどうか が分かりにくくなります。「年のせい」と片づけられてしまうからです。
(注)人数の求め方については「この記事の数字の根拠」欄をご参照ください。薬は体内で酵素により分解・排出されますが、この酵素の働き方は、遺伝子によってあらかじめ決まっています。遺伝子で決まる酵素の違いによって、分解が速い人・遅い人・標準的な人がいて、同じ量の薬を飲んでも血液中の薬の濃度が数倍も違うことがあり、それが薬の効きやすさ、副作用の出やすさに影響を与えます。
80歳以上の女性で、飲んでいる人の割合が高い薬
セレコキシブ | 関節リウマチ・変形性関節症 | CYP2C9 | 23.6% |
|---|---|---|---|
ランソプラゾール | 胃潰瘍・逆流性食道炎 | CYP2C19 | 15.3% |
ロスバスタチン | 高コレステロール | ABCG2・SLCO1B1 | 10.1% |
アトルバスタチン | 高コレステロール | SLCO1B1 | 8.9% |
プラバスタチン | 高コレステロール | SLCO1B1 | 4.9% |
厚生労働省「第11回NDBオープンデータ」(2024年4月〜2025年3月の処方実績)と総務省「人口推計」から算出した推計値です。男性では1位がランソプラゾール16.5%、5位にクロピドグレル7.1%が入ります。算出方法は記事の最後に記載しています。
ここから高齢者の薬に関する現状や、この遺伝子の個人差を調べて治療の選択に役立てる遺伝子検査「Genovision PGx」のことをご案内させていただきます。効果的な治療のためにもぜひ検査のご検討をいただけますと幸いです。
高齢の体では、薬が抜けにくくなっています
これは体質の問題ではなく、加齢による変化です。
年齢が上がると、肝臓で薬を分解する力と、腎臓から薬を出す力が落ちていきます。同じ量を飲んでも、血液中の濃度が高くなり、体から抜けるまでの時間が長くなります。
厚生労働省の「高齢者の医薬品適正使用の指針」にも、高齢者では血中濃度が上がりやすく体からの消失が遅れやすいため、「少量(例えば1/2量〜1/3量)から開始し、効果と有害事象をモニタリングしながら徐々に増量していくことが原則」と書かれています。
ここに、生まれ持った遺伝子の型が重なります。分解する酵素の働きが生まれつき弱い人では、加齢による低下と体質による低下が二重に効きます。同じ年齢、同じ体格の人と同じ量を飲んでいても、その人だけ血液中の濃度が高くなっている。年齢や体格を見ただけでは気づけない差が生まれます。
6種類以上飲んでいる薬がこの数を超えると、副作用(薬物有害事象)の発生が特に増えると報告されています。5種類以上では転倒が増えることも知られています。
約4割75歳以上で、5~6種類以上の薬を処方されている人の割合。7種類以上の人も約4分の1います。
厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および関連資料。薬剤数が多いこと自体が問題ではなく、中身と組み合わせが重要とされています。
「年のせい」と、区別がつきません
高齢の患者で報告される薬の副作用は、意識がぼんやりする、低血糖、肝機能の異常が各1割前後で、これに電解質の異常、ふらつき・転倒が続くとされています。
並べてみると、どれも加齢でも起こることです。足元がおぼつかない。日中うとうとしている。食欲が落ちた。同じことを何度も言う。これを聞いて、家族は「年をとったな」と考えます。本人もそう考えます。薬のせいかもしれない、という発想にはなりにくい。
だから受診しても「変わりありません」と答えてしまい、処方はそのまま続きます。効きすぎている薬が、そのまま何年も続くことがあります。
効いているかどうか、そもそも分からない薬もあります
脳梗塞や心筋梗塞のあとに飲むクロピドグレルは、血液を固まりにくくして再発を防ぐ薬です。この薬は、飲んだそのままの形では効きません。体内でCYP2C19という酵素によって別の形に作り替えられ、そこではじめて血液を固まりにくくする働きが出ます。
この酵素の働きが弱い型の人では、作り替えが十分に進みません。つまり、毎日きちんと薬を飲んでいるのに、血液を固まりにくくする働きが十分に出ていないという状態が起こりえます。医師から薬をもらって飲んでいるのだから守られているはずだ、と本人も家族も思っている。けれども実際には効いていない、ということです。
しかも、これには気づく手段がありません。痛み止めなら効かなければすぐ分かります。血圧の薬なら血圧を測れば分かります。ところがこの薬は、効いていても効いていなくても、体の感じ方は何も変わりません。ふつうの健康診断の項目にもありません。
そのまま何年も過ぎ、次の脳梗塞や心筋梗塞が起きたときにはじめて分かる。そういうことが起こりえます。
この薬を飲んでいる人は、年間で推計155万人。そのうち約102万人が、遺伝子の型からみて用量の見直しや別の薬への変更が検討されうる範囲に入ります。80歳以上の男性では、飲んでいる人の割合の5位に入る薬です。
薬が増えると、遺伝子の影響も変わります
薬と薬と遺伝子が、三つどもえで影響し合うことがあります。
ここまでの話は「遺伝子の型」と「薬」という2つの関係でした。ところが薬が何種類も重なると、3つ目の要素が入ってきます。一緒に飲んでいる薬が、別の薬を分解する酵素の働きを邪魔することがあるのです。
片方の薬がその酵素の働きを止めてしまうと、もう片方の薬は分解されずに残り、血液中の濃度が高いままになることで副作用のリスクが高くなることがあります。逆に、分解されてはじめて効く薬であれば、効く形に変われなくなり、薬の働きが十分に出ないことになります。
そこに遺伝子の型が重なります。もともと酵素の働きが「中くらい」の型の人が、その酵素を邪魔する薬を一緒に飲むと、実質的に「ほとんど働かない人」と同じ状態になります。これは薬の説明書(添付文書)にも書かれている現象で、たとえば抗うつ薬パロキセチンの添付文書には、CYP2D6を阻害することで通常の代謝能の人が低代謝能の人のような状態に変わる、という趣旨の記載があります。
事例1 胃の薬と、血液をサラサラにする薬
高齢の方にとって、血液をサラサラにする薬と胃薬の併用は、ごくありふれた組み合わせです。血液を固まりにくくするとご紹介したクロピドグレルは、CYP2C19という酵素で活性のある形に変わってはじめて効く薬でした。一方、胃薬のオメプラゾールは、CYP2C19の働きを抑えてしまいます。
この組み合わせは、両方の薬の説明書に「併用注意」として書かれています。クロピドグレル側には「CYP2C19を阻害することにより、本剤の活性代謝物の血中濃度が低下する」、オメプラゾール側にも「クロピドグレルの作用を減弱することがある」と記載されています。
日本人の約3人に2人は、もともとCYP2C19の働きが中程度か弱い型です。もともと活性化されにくい人が、さらに働きを抑える薬を一緒に飲む。そういう重なりが起こりえます。
事例2 抗うつ薬と、痛み止め
トラマドールやコデインは、CYP2D6という酵素で効く形に変換されてはじめて痛みに効きます。一方、抗うつ薬のパロキセチンは、このCYP2D6を強く抑えます。
遺伝的にCYP2D6の働きが中くらいの人は、日本人の約25〜30%います。その人がこの2剤を一緒に飲むと、痛み止めがほとんど効かない状態になることがあります。効かないので増量が検討される。すると吐き気やふらつきといった副作用だけが出る、ということも起こりえます。飲み合わせが原因だと分かっていれば、量を増やすのではなく別の痛み止めを選ぶという道もあります。
事例3 組み合わせで、使えるかどうかが決まる薬もある
ゴーシェ病の治療薬エリグルスタットでは、CYP2D6の型と、CYP2D6やCYP3Aを抑える薬を併用しているかどうかの組み合わせによって、投与してはいけない条件が添付文書で定められています。遺伝子の型だけでも、併用薬だけでも決まりません。両方を見てはじめて判断できる薬です。
なぜ、高齢の家族で起きやすいのか
薬の数が多いこと。そして処方元が分かれていることです。整形外科で痛み止め、内科で胃薬、循環器で血液をサラサラにする薬。それぞれの医師は自分が出した薬のことは分かっていますが、全体の掛け算を見ている人がいないという状態が起こりがちです。
お薬手帳があれば「いま何を飲んでいるか」は共有できます。けれども「その人の酵素がどれくらい働くのか」は、調べなければ誰にも分かりません。
遺伝子の型は、家族で受け継がれます
親のことを調べると、自分のことも少し見えてきます。
遺伝子は、父親と母親から半分ずつ受け継ぎます。薬を分解する酵素の設計図も同じです。だから、親のどちらかが「分解の遅い型」を2つ持っていれば、子は必ず1つを受け継ぎます。1つだけ受け継いだ場合、分解の速さは中間くらいになることが多いとされています。
父母分解が遅い型を2つ遅い型を1つ子父から必ず1つ受け継ぐ母からは半分の確率
塗りつぶした形が「分解が遅い型」。父が2つ持っていれば、子は必ず1つ受け継ぎます。兄弟姉妹は平均して半分の遺伝情報を共有します。
つまり、親が「あの薬は効かなかった」「あの薬で気分が悪くなった」と言っていたなら、それはあなたにとっての手がかりになります。逆に、あなたの結果は親や子にとっての手がかりになります。
ただし、手がかりは手がかりです。受け継ぐ組み合わせは人によって違うので、親と子の型が同じとは限りません。自分の型を確かめるには、自分が調べる必要があります。
Genovision PGx を、どう使うか
調べたあと、どの場面で何をするのかを具体的にお伝えします。
この検査で分かるのは、その人が生まれ持った酵素の型です。お薬手帳が示すのはいま飲んでいる薬です。この2つがそろってはじめて、医師や薬剤師は「もともとの働き」と「併用薬による影響」を重ねて確認できます。片方だけでは掛け算になりません。
- 新しい薬が処方されるときすでに飲んでいる薬と、これから出す薬が同じ酵素を使っていないか。その酵素の働きがもともと弱い型ではないか。この2点を同時に確認できます。診察室で薬が決まるまでは数分から数十分。その場に結果があることに意味があります。
- 複数の医療機関にかかっているとき結果を各医療機関と薬局に見せておけば、全員が同じ前提で処方を考えられます。お薬手帳と一緒に保管しておくのが確実です。
- 効かない、副作用が続くとき「薬が合わない」のか「飲み合わせで効かなくなっている」のか「もともとの型によるものか」。切り分けの材料になります。
- 薬が増えたとき、変わったときに見返す遺伝子の型は生涯変わりません。10年後、20年後に処方される薬にも同じ結果が使えます。受け直す必要はありません。
- 家族で話題にする親が飲んでいる薬、効かなかった薬、副作用が出た薬。家族の経験は、医師に伝える情報として役に立ちます。
ひとつ正確にお伝えしておきます。検査結果そのものには、飲み合わせの答えは書かれていません。レポートに書かれているのは、あなたの型と、その型で注意すべき薬です。実際にどの組み合わせが問題になるかは、医師や薬剤師がお薬手帳と突き合わせて判断します。検査は、その判断に必要な情報のうち、調べなければ一生分からない部分を埋めるものです。
親に受けてもらう場合
すでに何種類も薬を飲んでいる人ほど、結果を見せる相手(主治医)がはっきりしています。処方の見直しを検討する材料として使えます。
ただし注意があります。検査結果を理由に、家族の判断で薬を減らしたりやめたりしないでください。とくに血液を固まりにくくする薬は、勝手にやめると命に関わります。結果は必ず主治医に渡して、判断を仰いでください。
この検査でできること、できないこと
Genovision PGx は、薬の効き方に関わる遺伝子を調べ、70種類の薬について、あなたの体質から考えられる注意点を医師向けに整理してお伝えするサービスです。採血で調べられます。
できること。生まれ持った型を知り、効きにくい薬・効きすぎる薬・副作用に注意が必要な薬をあらかじめ把握しておくことです。
できないこと。効き方を決めるのは遺伝子だけではありません。年齢、肝臓や腎臓の働き、飲み合わせ、体重、喫煙、飲酒なども関わります。この記事で書いた加齢による変化も、遺伝子では説明できない部分です。検査結果は判断材料の一つであり、診断や治療方針を決めるものではありません。
服用中の薬について、この検査の結果を理由に自分で量を変えたり中止したりしないでください。必ず主治医か薬剤師にご相談ください。
この記事の数字の根拠
使ったデータ
- 厚生労働省「第11回NDBオープンデータ」(2026年6月公表):日本の公的医療保険のレセプトをほぼ全数集計した公開統計。2024年4月〜2025年3月について、医薬品ごとの処方数量が性別・5歳年齢階級別に公表されています。
- 総務省統計局「人口推計」(2024年10月1日現在・総人口)。
- 高齢者の薬物有害事象、服用薬剤数の分布、開始用量の原則:厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(2018年5月)および関連資料。
- 薬剤と遺伝子の対応、遺伝子の型ごとの対応方針:各薬剤の電子添付文書(PMDA 医療用医薬品情報検索)、およびCPIC・DPWGが公開しているガイドラインの推奨。
- 飲み合わせ(併用注意)の記載:プラビックス錠、オメプラゾール錠、パキシル錠、サデルガカプセルの各電子添付文書。
人数の求め方
- NDBオープンデータには処方された「量」しかなく、患者数は含まれていません。処方数量に1錠あたりの成分量を掛けて年間の総成分量を求め、薬ごとの1日あたりの服用量で割って総投与日数を算出し、「1人が1年間に処方される日数」で割って人数に換算しました。
- 「1.8人に1人」は総人口に対する、1年のうちに1回以上処方された人の割合です。1〜2週間で飲み終える薬を1回受け取った人も含みます。
- 「用量の見直しや別の薬への変更が検討されうる範囲」は、薬ごとに遺伝子の型を4段階に分類し、処方量に日本人での型の分布を掛けて算出した推計です。実際に用量が変わる量ではありません。
この推計の限界
- 実際の患者数を数えたものではなく、処方量からの逆算です。1日の服用量と処方日数の前提に結果が比例して動きます。
- 処方数量が1,000未満の区分はNDBで非公表になるため、90歳以降の年代や患者数の少ない薬は少なく出ます。
- 注射薬と一部の散剤・液剤は人数の推計に含めていません。
- 示した割合は日本全体の平均で、個人の将来を予測するものではありません。
出典:厚生労働省「第11回NDBオープンデータ」/総務省統計局「人口推計(2024年10月1日現在)」/厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」/各薬剤の電子添付文書/CPIC・DPWGガイドライン
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いま、薬を飲んでいない人へ。もしかしたら10年後のあなたは、飲んでいるかもしれません。
家族の薬のことを、いちど考えてみる。
Genovision PGx は、一度の検査で70種類の薬に備えられる遺伝子検査サービスです。検査の流れ、費用、結果の見方について詳しくご案内しています。
本記事は Genovision PGx の紹介を目的とした情報提供であり、特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。服用中の薬に関するご相談は、主治医または薬剤師にお願いいたします。
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