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その違いの一部は、生まれ持った遺伝子の型で決まっています。効き方だけでなく、まれに起こる重い副作用のリスクにも関わります。日本全国の処方データを調べると、遺伝子の型が関係する薬は、思っていたよりずっと身近にありました。
日本人の約4人に1人が、1年のうちに
遺伝子の型が関係する薬を処方されています。
推計3,186万人。1〜2週間だけ飲む痛み止めや咳止めも含めた数です。毎日飲み続けている人にかぎっても、約7人に1人(推計1,745万人)。いずれも厚生労働省の全国処方データから算出しました。算出方法は記事の最後に記載しています。
なぜ、同じ薬で効き方が変わるのか
鍵になるのは、薬を分解したり体内に取り込んだりする「たんぱく質」です。
飲んだ薬は、肝臓にある酵素というたんぱく質によって分解され、やがて体の外へ出ていきます。この酵素の働きの強さは、人によって生まれつき違います。設計図である遺伝子の型が違うからです。
分解する力が弱い体質の人では、同じ量を飲んでも薬が体に長くとどまり、成分が濃くなりすぎることがあります。逆に、分解が速すぎる体質の人では、飲んでいるのに十分に効かないことがあります。飲んだ薬が体内で効く形に変わってはじめて働くタイプの薬では、この関係が反対になります。
こうした体質は、体格や年齢では見分けられません。調べる方法は、遺伝子の型を実際に検査することです。そして遺伝子の型は一生変わらないため、検査は一度受ければ足ります。
日本人には、日本人に多い体質があります
遺伝子の型の分布は民族によって違います。欧米のデータをそのまま当てはめることはできません。
約19%:胃の薬や抗血小板薬の分解に関わるCYP2C19という酵素の働きが、生まれつき弱い人の割合。欧米では数%とされ、日本人に多い体質です。
約28%:咳止めや抗うつ薬などの分解に関わるCYP2D6の働きが低下している人の割合。日本人ではこの型が高い頻度でみられます。
約26%:コレステロールの薬を肝臓に取り込む力が弱く、筋肉の副作用が出やすいとされる型(SLCO1B1)を持つ人の割合。多くの薬では量を変えるのではなく、注意して経過をみる対象とされています。
約20%:白血病や炎症性腸疾患で使う薬(チオプリン製剤)で、重い骨髄抑制や脱毛が出やすいとされる型(NUDT15)を持つ人の割合。この体質はアジアに多いことが分かっています。
日本人のアレル頻度(国立医薬品食品衛生研究所・PMDA 斎藤嘉朗ら 2013年ほか)から算出した概算値です。数%の幅があります。
この頻度を、薬ごとの対応方針と実際の処方量に当てはめて計算しました。Genovision PGx が対象とする70種類の薬は、日本で1年間に約118億錠が処方されています。この70種類の処方量のうち22%(約26億錠)が、遺伝子の型によっては量の調整や別の薬への変更が検討されうる処方に相当します。さらに19%(約22億錠)は、量は変えなくても副作用に注意して経過をみることがすすめられる処方です。
ここでの22%・19%は、対象となる70種類の薬のなかでの割合です。日本で処方されている薬全体に対する割合ではありません。70種類そのものが薬全体に占める大きさは、金額で見ると、院外処方された内服薬の薬剤料のうち約7%にあたります。
これは「対象薬の2割の処方が間違っている」という意味ではありません。実際にどうするかは、検査結果と患者さんの状態を見て医師が判断します。ただ、判断材料としてこれだけの量が関係している、ということです。
より確実な部分だけを見ることもできます。薬の説明書(添付文書)に遺伝子の型ごとの用量や使用の可否が明記されている薬は、70種類のうち6種類。その6種類に限っても、年間3.8億錠が処方されています。
まれですが、取り返しのつかない副作用があります
スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)という薬の副作用です。
38度以上の高熱とともに、全身の皮膚と、口・目・性器の粘膜に発疹や水ぶくれ、ただれが急に広がるスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)という薬の副作用があります。原因の多くは医薬品で、飲み始めてから2週間以内に起こることが多いとされます。日本では指定難病です。
起こる頻度は、人口100万人あたり年間1〜6人。さらに重症型の中毒性表皮壊死症(TEN)は0.4〜1.3人です。どちらもまれな病気で、国の指定難病に指定されています(SJSは38番、TENは39番)。ただし発症したときの重さが問題になります。致死率はSJSで約3〜5%、TENでは20〜30%と報告されています。命が助かっても、角膜の傷による視力障害や失明、皮膚の瘢痕、爪の脱落などの後遺症が残ることがあります。
痛風の薬でも起こります
原因になる薬は幅広く、日本皮膚科学会の診療ガイドラインでは、SJSの被疑薬として抗菌薬など16.3%、解熱鎮痛消炎薬14.6%、抗てんかん薬14%が挙げられています。個別の薬の名前としては、痛風・高尿酸血症の薬であるアロプリノールが、代表的な原因薬剤の一つとして繰り返し報告されてきました。
アロプリノールは、日本で1年間に約4.1億錠が処方されています。服用している人は年間およそ67万人という推計です。痛風は「贅沢病」などと軽く語られることもありますが、その治療薬が重症薬疹の原因薬剤として名前が挙がり続けています。
関わる遺伝子の型は、はっきり分かっています
約1%:アロプリノールで重症薬疹が起こりやすいとされる型(HLA-B*58:01)を持つ人の割合。厚生労働省の安全性情報にも「日本人集団における保有率は約1%」と記載されています。重症薬疹を起こした人ではこの型の割合が高く、日本人でのオッズ比は62.8と報告されています。
約17%:カルバマゼピンで重症薬疹が起こりやすいとされる型(HLA-A*31:01)を持つ人の割合。約6人に1人です(遺伝子そのものの頻度としては8〜9%)。
カルバマゼピンについては、薬の説明書(添付文書)に日本人のデータが記載されています。重症薬疹を起こした77人のうち58%がHLA-A*31:01を持っていたのに対し、起こさなかった420人では13%でした。同じ薬を飲んでも、この型を持つ人に副作用が偏っていたことになります。
アロプリノールについて計算すると、年間およそ6,700人が、リスクの高い型を持つことを知らないまま処方を受けていることになります。カルバマゼピンでは約4万6千人です。
調べておくことで薬疹が減った、という研究があります
日本で行われた研究では、カルバマゼピンをこれから使う予定の1,130人について、投与前にHLA-A*31:01を調べ、陰性の人にはカルバマゼピンを、陽性の人には別の薬を使いました。その結果、カルバマゼピンによる薬疹の発症率が41〜61%減ったと報告されています。厚生労働省の安全性情報でも、この検査の臨床的有用性が実証されたと記載されています。
ただし、すべての薬で同じことが言えるわけではありません
ここは正確にお伝えします。リスクの高い型を持っていても、実際に重症薬疹を起こす人はごく一部です。アロプリノールを飲んだ人全体で重症の皮膚障害が起こる割合は、海外の推定で0.1〜0.4%程度とされています。逆に、型を持っていない人でも起こることがあります。
厚生労働省の安全性情報も、リスク型を持っていても発症しない場合が多いため、こうした結果をそのまま重症薬疹の回避に用いることは現状では難しい薬剤もある、としています。上のカルバマゼピンのように検査の有用性が確かめられた例と、関連は分かっているものの検証が続いている例があり、そこは区別して受け取っていただく必要があります。
日本の添付文書には、これらの遺伝子の型と重症薬疹の関連が記載されています。一方で、型ごとに使ってよいかどうかや用量を指示する記載はありません。「この型なら避ける」という対応は海外のガイドライン(CPIC)が示しているもので、実際に避けるかどうかは、ほかに使える薬があるか、その患者にとって必要かを含めて医師が決めます。
つまり検査は、副作用をゼロにする方法ではありません。避けられる可能性のあるリスクを、一つ減らしておく方法です。アロプリノールもカルバマゼピンも代わりになる薬がある領域なので、リスクの高い型だと分かっていれば、最初から別の薬を選ぶという選択肢を医師と相談できます。
痛風の薬やてんかんの薬は、飲み始める場面が急にやってきます。健康診断で尿酸値を指摘されて数か月後に処方される、そういう順番です。飲む前に自分の型を知っておけることに、この検査の意味があります。
出典:厚生労働省「医薬品・医療機器等安全性情報 No.372」(2020年4月)、厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル スティーヴンス・ジョンソン症候群」、日本皮膚科学会「重症多形滲出性紅斑 スティーヴンス・ジョンソン症候群・中毒性表皮壊死症診療ガイドライン」、難病情報センター(指定難病38・39)、テグレトール錠 電子添文(2026年3月改訂 第3版)、Mushiroda T et al. JAMA Neurol. 2018;75:842-849、CPICガイドライン
検査でわかること、わからないこと 〜検査で副作用のリスクを減らす〜
Genovision PGx は、薬の効き方に関わる遺伝子を調べ、70種類の薬について、あなたの体質から考えられる注意点を医師向けに整理してお伝えするサービスです。採血で調べられます。
わかること
薬を分解する酵素や、薬を細胞に取り込むたんぱく質の型。そこから考えられる、量の調整や副作用に注意すべき薬の候補です。遺伝子の型は変わらないので、結果は将来処方される薬にも使えます。
わからないこと
効き方を決めるのは遺伝子だけではありません。年齢、肝臓や腎臓の働き、飲み合わせ、体重、喫煙、飲酒なども関わります。検査結果は判断材料の一つであり、診断や治療方針を決めるものではありません。服用中の薬について、この検査の結果を理由に自分で量を変えたり中止したりしないでください。必ず主治医か薬剤師にご相談ください。
この記事の数字の根拠
この記事の推計は、次の公開データと手順にもとづいています。前提を変えれば数字も動くため、算出方法を明示します。
使ったデータ
- 厚生労働省「第11回NDBオープンデータ」(2026年6月公表):日本の公的医療保険のレセプト(診療報酬明細書)をほぼ全数集計した公開統計。2024年4月〜2025年3月の1年間について、医薬品ごとの処方数量が性別・5歳年齢階級別に公表されています。
- 総務省統計局「人口推計」(2024年10月1日現在):年代別・男女別の人口。
- 70種類が薬全体に占める大きさの比較:厚生労働省「令和5年度 調剤医療費(電算処理分)の動向」の薬剤料(内服薬 4兆7,245億円)と、本記事の対象薬の院外処方・内服の薬剤料推計(3,207億円)を比較したもの。集計年度が1年ずれているため概数です。
- 日本人の遺伝子型の頻度:国立医薬品食品衛生研究所・PMDA 斎藤嘉朗ら(2013年)ほかの日本人アレル頻度から算出した概算値。
- 重症薬疹(SJS・TEN)の発生頻度・致死率・原因薬剤:厚生労働省「医薬品・医療機器等安全性情報 No.372」(2020年4月)、同「重篤副作用疾患別対応マニュアル」、日本皮膚科学会の診療ガイドライン。カルバマゼピンの日本人データはテグレトール錠の電子添文(2026年3月改訂 第3版)、事前検査の効果はMushiroda T et al. JAMA Neurol. 2018。
- 薬剤と遺伝子の対応、および遺伝子の型ごとの対応方針:各薬剤の電子添付文書(PMDA 医療用医薬品情報検索)と、CPIC(Clinical Pharmacogenetics Implementation Consortium)およびDPWG(オランダ薬理遺伝学ワーキンググループ)が公開しているガイドラインの推奨。これらにもとづいて、薬剤ごとに遺伝子の型を「通常処方可」「注意して経過をみる」「量の調整や変更を検討する」「重大な副作用のおそれ」に分類し、上記の日本人での型の分布を掛けて、記事の「22%」「19%」を算出しています。
人数の求め方
- NDBオープンデータには処方された「量」しかなく、患者数は含まれていません。そこで、処方数量に1錠あたりの成分量を掛けて年間の総成分量を求め、薬ごとの1日あたりの服用量で割って総投与日数を算出しました。
- これを「1人が1年間に処方される日数」で割り、人数に換算しました。長く飲み続ける薬は250〜340日、痛み止めや咳止めなど短期間の薬は10〜60日として計算しています。
- 1人が複数の対象薬を飲んでいる重複を補正して、実人数を推計しました。全年代の推計は3,186万人で、補正の前提を変えると2,500万〜4,400万人の幅があります。
- 「約4人に1人」は、総人口(2024年10月1日現在 1億2,380万人、全年齢)に対する、1年のうちに1回以上処方された人の割合です。1〜2週間で飲み終える痛み止めや咳止めを1回受け取った人も含みます。処方量を「1年間毎日飲み続けた人」に換算し直すと約1,745万人(14.1%、約7人に1人)となり、この差は短期処方の薬によるものです。慢性疾患の薬だけを集計しても約1,766万人となり、換算値とほぼ一致します。
この推計の限界
- 実際の患者数を数えたものではなく、処方量からの逆算です。1日の服用量と処方日数の前提に結果が比例して動きます。とくに痛み止めや咳止めは前提の影響を強く受けます。
- NDBオープンデータでは処方数量が1,000未満の区分は非公表になるため、小児や100歳前後の年代、患者数の少ない薬は少なく出ます。
- 注射薬と一部の散剤・液剤は人数の推計に含めていません。
- 遺伝子型の頻度は日本人集団の平均的な推計値で、数%の幅があります。
- 「量の調整が検討されうる処方」は、その遺伝子型に当てはまる処方の量です。実際に量が変わる処方の量ではありません。
- 薬の説明書(添付文書)に遺伝子型別の指示が書かれている薬は70種類のうち6種類で、残りは学会の診療指針や海外の推奨にもとづく情報です。
出典:厚生労働省「NDBオープンデータ」/総務省統計局「人口推計(2024年10月1日現在)」/金子ほか「CYP2C19,CYP2D6,およびCYP2C9の遺伝子多型と人種差」/日本小児血液・がん学会「NUDT15遺伝子多型検査の保険適用と臨床活用について」(2019年)
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いま、薬を飲んでいない人へ。もしかしたら10年後のあなたは、飲んでいるかもしれません。
体質を知ってから、薬と付き合う。
Genovision PGx は、一度の検査で70種類の薬に備えられる遺伝子検査サービスです。検査の流れ、費用、結果の見方について詳しくご案内しています。
本記事は Genovision PGx の紹介を目的とした情報提供であり、特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。服用中の薬に関するご相談は、主治医または薬剤師にお願いいたします。
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