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同じ病気で同じ薬を処方されても、よく効く人がいる一方で、効果が乏しい人や、思わぬ副作用に悩まされる人もいます。この「効き方の個人差」の背景として、生まれ持った遺伝子の違いが大きく関わっていることが、近年の研究で明らかになってきました。
薬は体内で酵素により分解・排出されますが、この酵素の働き方は、遺伝子によってあらかじめ決まっています。遺伝子で決まる酵素の違いによって、分解が速い人・遅い人・標準的な人がいて、同じ量の薬を飲んでも血液中の薬の濃度が数倍も違うことがあります。この個人差を調べて、治療の選択に役立てる取り組みを「PGx(ファーマコゲノミクス/薬理遺伝学)」といい、そのための遺伝子検査を「PGx検査」と呼びます。
PGxは決して新しい概念ではありません。個々の遺伝子と薬剤の関係を証明した基礎的な研究から、数万人・数十万人規模の実臨床データで効果を検証した大規模な実装実績まで、世界中の医療現場ですでにその価値が繰り返し証明されてきました。ここでは、その両方の成果を一つずつわかりやすく紹介しながら、こうした恩恵を日本でも受けられるようにする検査、Genovision PGxについてご説明します。
Part 1 個々の遺伝子と薬剤の関係を証明した研究
まずは、特定の遺伝子と特定の薬剤の組み合わせについて、「なぜ効き方が違うのか」というメカニズムを解き明かした研究を見ていきます。
① 心臓・脳血管の治療を支える(CYP2C19/抗血小板薬)
心筋梗塞や脳梗塞の治療でステント留置後に使われる抗血小板薬クロピドグレルは、CYP2C19の働きが弱い患者では十分に活性化されず、血栓の再発リスクが高まることが分かっています。
- POPular Genetics試験(Claassens et al., New England Journal of Medicine, 2019年)など複数の大規模試験で、CYP2C19の遺伝子型に応じて薬剤を選択する「遺伝子型ガイド治療」が、出血リスクを抑えながら血栓イベントの抑制につながる可能性が示されています。
POINT
一刻を争う循環器・脳血管領域の治療現場でも、あらかじめ遺伝子情報を持っておくことの価値が確認されています。
✔ Genovision PGxでも検査対象
クロピドグレルを対象薬剤としてCYP2C19遺伝子を検査しています。
② 重篤なアレルギー反応をほぼゼロにした検査(HLA-B*5701/アバカビル過敏症)
HIV治療薬アバカビルは、一部の患者に重篤な過敏症反応(発熱・発疹・多臓器障害を伴う薬物過敏症症候群)を引き起こすことが知られていました。原因の一つが「HLA-B*5701」という遺伝子型です(PREDICT-1試験, Mallal et al., New England Journal of Medicine, 2008年)。
- 投与前にHLA-B*5701を調べ、陽性者への投与を避けたところ、免疫学的に確定された過敏症の発生率が2.7%からほぼ0%に低下。
- この結果を受け、現在ではアバカビル投与前の遺伝子検査が国際的な診療ガイドラインで推奨され、多くの国で標準治療となっています。
POINT
「重い副作用を未然に防ぐ」というPGxの最も分かりやすい成功例であり、遺伝子検査が“安全に薬を使うための備え”になることを示しています。
✔ Genovision PGxでも検査対象
アバカビルを対象薬剤としてHLA-B遺伝子を検査しています。
③ 薬剤性の重篤な副作用を防ぐ(TPMT・NUDT15/チオプリン系薬剤)
白血病や炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)の治療で使われるチオプリン系薬剤(アザチオプリンなど)は、TPMTやNUDT15という遺伝子の働きが弱い患者に通常量を投与すると、白血球が極端に減少する重篤な骨髄抑制を起こすリスクが大きく高まります。
- 国際的な薬物治療ガイドライン(CPIC)は、これらの遺伝子型に応じた減量や慎重投与を推奨しています。
- 特にNUDT15は、欧米人よりも日本人を含む東アジア人で変異の頻度が高いことが知られており、日本人においてとりわけ臨床的な意義が大きい遺伝子とされています。
POINT
海外のガイドラインをそのまま当てはめるのではなく、日本人の遺伝子頻度を踏まえて検査結果を解釈することの重要性を裏付ける事例です。
✔ Genovision PGxでも検査対象
アザチオプリン・メルカプトプリンを対象薬剤としてTPMT・NUDT15の両遺伝子を検査しています。
④ ワルファリンの至適用量を導く遺伝子(VKORC1・CYP2C9)
血栓症の治療・予防に使われるワルファリンは、有効域が狭く、用量調整が難しい薬剤の代表格です。効果の個人差の多くは、VKORC1とCYP2C9という2つの遺伝子で説明できることが分かっています。
- 欧州で行われたEU-PACT試験(Pirmohamed et al., New England Journal of Medicine, 2013年)では、遺伝子型に基づいて初期用量を決めたグループの方が、薬の血中濃度が治療域内にとどまった時間の割合(Time in Therapeutic Range)が高くなりました(67.4% 対 60.3%)。「治療域にとどまる時間の割合」とは、効きすぎて出血しやすい状態にも、効果が不十分で血栓ができやすい状態にもならず、ちょうどよい血中濃度で安定していた時間の長さを示す指標です。この差は統計学的に有意、つまり偶然のばらつきでは説明しにくい差であると判定されており、遺伝子型を踏まえて初期用量を決めることで、治療開始直後から血中濃度を安定させやすくなる可能性を示しています。
- 一方、米国で行われたCOAG試験では、同じような有意差は確認されませんでした。対象集団の人種構成や医療機関ごとの運用方法の違いによって、効果の出方が変わりうることを示す結果です。
POINT
「遺伝子情報を使えば常に劇的な効果が出る」と単純化するのではなく、薬剤や対象集団によって効果の大きさが異なることを正しく理解した上で活用することが、PGx検査を正しく役立てる鍵です。
✔ Genovision PGxでも検査対象
ワルファリンを対象薬剤としてVKORC1・CYP2C9の両遺伝子を検査しています。また、Genovision PGxのレポートコンテンツには、日本人医師の監修を受けた日本薬理遺伝学実装コンソーシアム(JCPIC)のコンテンツを採用しており、日本における薬剤の適用状況などを踏まえた、日本の診療実態に即した解釈を提供しています。
Part 2 パネル検査・実装プログラムが積み上げてきた成果
個々の遺伝子と薬剤の関係が証明される一方で、「主要な遺伝子をまとめて調べておく」パネル方式の検査を、実際に数千人・数十万人規模で運用し、具体的な成果を積み上げてきた実績も世界には数多くあります。
⑤ 副作用がおよそ3割減った大規模試験(PREPARE試験/欧州7カ国)
オランダ・ライデン大学医療センターが主導し、欧州7カ国の医療機関が参加した「PREPARE試験」は、PGxの実力を世界で初めて大規模に証明した研究として知られています(Swen et al., The Lancet, 2023年)。
- 対象:6,944人の患者を、薬を処方する前に12種類の遺伝子を一括検査して結果を治療に反映させるグループと、通常どおり処方するグループに分けて比較。
- 結果:遺伝子情報を活用したグループでは、臨床的に重要な副作用の発生率が約30%減少。対象となった薬剤は、抗うつ薬、抗血小板薬、オピオイド系鎮痛薬など、日常診療で広く使われるものを含む多岐にわたる薬剤群でした。
POINT
「特定の薬・特定の遺伝子」を一つずつ調べるのではなく、主要な遺伝子をまとめて事前に調べておくことの価値を、大規模な患者集団で証明した点が画期的です。
✔ Genovision PGxでも検査対象
PREPARE試験が対象とした抗うつ薬・抗血小板薬・オピオイド系鎮痛薬などの薬効群は、いずれもGenovision PGxが対応する70薬剤の中に含まれています。
⑥ わずか3つの遺伝子で、防げる副作用の75%を説明(英国130万件のデータ分析)
ロンドン大学クイーン・メアリー校の研究チームは、英国の医薬品規制当局に報告された130万件超の副作用報告(1963〜2024年)を分析しました(PLOS Medicine, 2024年)。
- 解析対象となった副作用のうち、遺伝子検査で予防に役立てられる可能性がある薬剤に関連するものが一定数存在し、その中でCYP2C19・CYP2D6・SLCO1B1という3つの遺伝子が、予防し得る副作用の約75%に関与していることが判明しました。
- 副作用の内訳では、精神科領域の薬剤が全体の47%、循環器領域の薬剤が24%を占めていました。
POINT
「代表的な遺伝子をまとめて調べておく」ことの費用対効果の高さを裏付けるデータであり、精神科・循環器領域を含む幅広い薬剤を対象にPGx検査を設計することの合理性を示しています。
✔ Genovision PGxでも検査対象
この3遺伝子すべてを検査対象に含み、CYP2D6関連25薬剤・CYP2C19関連12薬剤・SLCO1B1関連6薬剤(スタチン系脂質異常症治療薬など)を含む70薬剤に対応しています。
⑦ 入院が減り、医療費が下がった ― 500万人規模の実績(GeneSight/Myriad Genetics, 米国)
精神科領域に特化したPGx検査GeneSightは、累計50万人以上が検査を受けてきた実績をもとに、複数の実診療データ分析で具体的な成果を公表しています。
- 約21,000人のうつ病患者を対象とした実診療データ分析(2024年発表)では、検査後180日間で精神科関連の入院が39%減少、あらゆる原因による入院も29%減少しました。
- 2,025人を対象としたIMPACT試験では、プライマリケア医がGeneSightの結果を活用した場合、治療への反応率が34%、寛解率が57%改善しました(いずれも相対改善)。
- 2,168人を対象とした医療費分析(Clinical Therapeutics誌, 2017年)では、GeneSightの結果に沿って処方した場合、そうでない場合と比べてプライマリケアで平均3,998ドル、精神科で平均1,308ドルの医療費削減が確認されました。
POINT
研究室レベルの証明にとどまらず、実際の処方行動や入院・医療費という経営指標にまで効果が及ぶことを示した点が重要です。
✔ Genovision PGxでも検査対象
抗うつ薬・抗精神病薬に関連するCYP2D6・CYP2C19は、Genovision PGxでもそれぞれ25薬剤・12薬剤を対象に検査しており、同様の薬効領域をカバーしています。
⑧ 「ほぼ全員に役立つ情報」であることを証明(Vanderbilt大学 PREDICTプログラム, 米国)
Vanderbilt大学医療センターは、外来患者を対象に主要な薬物代謝関連遺伝子を先制的(症状が出る前)に検査するPREDICTプログラムを大規模に実施してきました。
- 10,044人の患者を先制的に検査した結果、91%の患者が、少なくとも1つの臨床的に重要な(actionable)遺伝子型を保有していることが判明しました(Van Driest et al., Clinical Pharmacology & Therapeutics, 2014年)。
POINT
「自分には関係ない」と思っている人でも、実際には10人中9人が、将来なんらかの形でこの情報を役立てる可能性があるということです。
⑨ 小児医療の現場に定着した先制的検査(St. Jude Children's Research Hospital, 米国)
小児がん治療で知られるSt. Jude小児研究病院は、PG4KDSという先制的PGxプログラムを2011年から継続的に運用しています。
- 2020年6月時点で、約6,000人の患者記録にPGx検査結果が組み込まれ、日常の処方判断に活用されています。
- 小児・長期治療領域という、副作用の影響が特に大きい現場で、先制的検査を一過性の取り組みではなく“定着した仕組み”として運用し続けている点が特徴です。
POINT
検査を「一度きりのイベント」ではなく、生涯にわたって医療現場で使われ続ける仕組みとして根付かせることの重要性を示す事例です。
研究・実績のまとめ
ここまで紹介した9つの事例を整理すると、個々の遺伝子・薬剤の組み合わせで効果が証明された研究(Part 1)と、パネル方式・先制的な実装プログラムが数千〜数十万人規模で積み上げてきた成果(Part 2)が、互いに補い合っていることがわかります。
研究・実績 | わかったこと | 規模・性質 |
|---|---|---|
HLA-B*5701/アバカビル | 重篤な過敏症が2.7%→ほぼ0%に | 単一遺伝子×単一薬剤(世界標準治療化) |
TPMT・NUDT15/チオプリン系薬剤 | 重篤な骨髄抑制を回避 | 単一遺伝子群×単一薬剤群(アジア人で特に重要) |
CYP2C19/クロピドグレル | 血栓イベント抑制の可能性 | 単一遺伝子×単一薬剤(循環器領域) |
VKORC1・CYP2C9/ワルファリン | 欧州で有意、米国では非有意(集団差の教訓) | 単一遺伝子群×単一薬剤(限界の明示) |
PREPARE試験(欧州7カ国) | 副作用が約30%減少 | 12遺伝子パネル×6,944人の実装研究 |
英国130万件データ分析 | 3遺伝子で防止可能な副作用の75%を説明 | 130万件超の実副作用報告の解析 |
GeneSight(Myriad Genetics) | 精神科入院39%減、寛解率57%改善、医療費削減 | 累計50万人以上・実診療データ約21,000人分析 |
Vanderbilt PREDICTプログラム | 91%が少なくとも1つの重要な遺伝子型を保有 | 10,044人の先制的検査プログラム |
St. Jude PG4KDS | 先制的PGxが小児医療の日常診療に定着 | 約6,000人規模(2020年時点) |
こうした研究成果を、日本でも当たり前に
Genovision PGxは、70種類の薬剤に関連する18の遺伝子を、一度の検査でまとめて調べられる国内の検査です。今回ご紹介した研究・実績の対象そのもの――アバカビル(HLA-B)、アザチオプリン・メルカプトプリン(TPMT・NUDT15)、クロピドグレル(CYP2C19)、ワルファリン(VKORC1・CYP2C9)、そしてCYP2D6・CYP2C19に関連する抗うつ薬・抗精神病薬など25種類・12種類の薬剤や、SLCO1B1に関連する6種類のスタチン系薬剤――が、いずれもGenovision PGxの検査対象に含まれています。
また、遺伝子の変異頻度は人種・民族によって異なることが知られています(NUDT15の例で見た通りです)。Genovision PGxは、日本人集団における遺伝子頻度データや国内の医薬品添付文書の記載を踏まえて設計されており、海外の基準をそのまま当てはめるのではなく、日本人によりふさわしい形で情報を提供することを目指しています。
遺伝子情報は一生変わりません。一度検査しておけば、今回ご紹介したような研究・実績の恩恵を、今後処方される可能性のある薬や、将来かかるかもしれない病気の治療選択の場面でも、繰り返し役立てることができます。
私たちが目指すのは、海外の実績が示してきたような、入院リスクの低減、医療費の適正化、そして重篤な副作用の未然防止といった成果を、日本の医療現場でも一つひとつ実証していくことです。まずは検査の普及を進め、実診療データを積み重ね、Genovision PGxが「特別な検査」ではなく「当たり前の医療インフラ」として日本に根付くことを目指します。
「自分に合う薬」を、経験や試行錯誤だけに頼るのではなく、科学的根拠に基づいて選ぶ時代へ。世界がすでに証明してきたPGxの価値を、日本の医療現場でも実証していく。Genovision PGxは、その一歩を踏み出す検査です。
Genovision PGxについて、詳しく知る。
Genovision PGxは、一度の検査で70種類の薬剤に備えられる遺伝子検査サービスです。検査の流れ、費用、結果の見方について詳しくご案内しています。
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参考文献・出典
- Mallal S, et al. HLA-B*5701 Screening for Hypersensitivity to Abacavir (PREDICT-1). New England Journal of Medicine. 2008.
- Relling MV, et al. Clinical Pharmacogenetics Implementation Consortium (CPIC) Guideline for Thiopurine Dosing Based on TPMT and NUDT15 Genotypes.
- Claassens DMF, et al. A Genotype-Guided Strategy for Oral P2Y12 Inhibitors in Primary PCI (POPular Genetics). New England Journal of Medicine. 2019.
- Pirmohamed M, et al. A Randomized Trial of Genotype-Guided Dosing of Warfarin (EU-PACT). New England Journal of Medicine. 2013.
- Kimmel SE, et al. A Pharmacogenetic versus a Clinical Algorithm for Warfarin Dosing (COAG). New England Journal of Medicine. 2013.
- Swen JJ, et al. A 12-gene pharmacogenetic panel to prevent adverse drug reactions: an open-label, multicentre, controlled, cluster-randomised crossover implementation study. The Lancet. 2023.
- Queen Mary University of London. Genomic analysis of 1.3 million adverse drug reaction reports. PLOS Medicine. 2024.
- Myriad Genetics. Impact of Combinatorial Pharmacogenomic Testing on Hospitalization Rates in a Real-World Dataset of Patients with Major Depressive Disorder. AAPP, 2024.
- Myriad Genetics / GeneSight. GeneSight-Guided Treatment Significantly Improves Outcomes for Patients with Major Depression Treated in the Primary Care Setting (IMPACT study). 2019.
- Assurex Health / Myriad Genetics. GeneSight Psychotropic Test Demonstrated Substantial Cost Savings for Payers. Clinical Therapeutics, 2017.
- Van Driest SL, et al. Clinically Actionable Genotypes Among 10,000 Patients With Preemptive Pharmacogenomic Testing (Vanderbilt PREDICT). Clinical Pharmacology & Therapeutics. 2014.
- St. Jude Children's Research Hospital. PG4KDS: Clinical Implementation of Pharmacogenetics.
本記事は Genovision PGx の紹介を目的とした情報提供であり、特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。服用中の薬に関するご相談は、主治医または薬剤師にお願いいたします。
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